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ピンク・フロイド大回顧展、最新現地レポート、記者会見から見えてきた展示の詳細

2017.03.09
INFO



ピンク・フロイド大回顧展、最新現地レポート、記者会見から見えてきた展示の詳細


今年デビュー50周年を迎えるピンク・フロイドの大回顧展「The Pink Floyd Exhibition: Their Mortal Remains」が、ロンドンV&A(ヴィクトリア&アルバート博物館)で5月13日から開催される。これに先駆け、去る2月16日、バンドのメンバー2人、ロジャー・ウォーターズとニック・メイソンを迎えて展示の詳細を発表する記者会見が開かれた。すでに速報をお届けしたが、続いて、展示内容に関する詳報をお伝えしたい。当日の出席者は次の6人。

1部 ヴィクトリア・ブローケス
2部 オーブリー・パウエル、レイ・ウィンクラー
3部 ダニエル・ゼンハイザー
4部 ロジャー・ウォーターズ、ニック・メイソン

まず、V&Aのキュレーター、ヴィクトリア・ブローケス女史があいさつ。この展覧会はバンドのメンバーからの多大な協力を得、バンドのアーカイブへの無制限のアクセス許可を受けて行われること、モノを並べるだけでなく、アイテムとバンドの作品との関連性を探る奥深い展示になることを説明。「ピンク・フロイドの秘密の一端が明らかになるでしょう」と結んだ。

3部に登場したダニエル・ゼンハイザー氏は、会場の音響を担当するドイツの音響機器メーカー、ゼンハイザー社の代表。60年代にピンク・フロイドが同社のマイクを使い始めて以来、バンドとはファミリー三代にわたる50年の付き合いになるという社史を披露。また「十代の難しかった時期に、ピンク・フロイドの音楽に助けられました」とバンドへの個人的な思いを語った。ちなみに、この会社は2013年に同じV&Aで行われたデヴィッド・ボウイ大回顧展でも音響を担当している。「今回、会場の最後のところにとてつもないピンク・フロイド的環境を設置します。どんなに少なくとも実際のライヴと同じだけのクオリティで聴ける高品質のスピーカーを使用して。彼らのサウンドに真に身をひたす体験となるでしょう。お楽しみに」

展覧会には、バンドのメンバーや長年バンドと協働してきたスタッフから提供される貴重な品々を含む350余点が出品される。ここで、2部に出席したオーブリー・パウエルとレイ・ウィンクラー、そして最後に登場したロジャー・ウォーターズとニック・メイソンの4人の口から直接語られた説明を基に、展示品の一部を見てみることにしよう。

オーブリー・パウエルは、故ストーム・ソーガソンとデザイン集団ヒプノシスを設立し、共にピンク・フロイドのほとんどのアルバム・デザインを手がけ、バンドのビジュアル・イメージを決定づける仕事をしてきた人。本展ではクリエイティブ・ディレクターを務め、企画実現の立役者となっている。レイ・ウィンクラーは、バンドの大規模なステージ制作を手がけてきた会社スチューフィッシュの代表。実際にバンドと密に仕事をしてきたのはマーク・フィッシャーだが、フィッシャー氏亡きあとこの人が仕事を引き継ぎ、展覧会でもエクジビション・デザイナーの役を担っている。

●アルバム・ジャケットの数々

ジャケット・アートの解説をするオーブリー(真ん中)とレイ(右)

オーブリー「60年代初め、ピンク・フロイドとは幼なじみのストーム・ソーガソンと出会い、ヒプノシスを設立しました。ピンク・フロイドは自分たちの写真を使ったファースト・アルバムのジャケットを気に入ってなく、セカンドのデザインのことでストームと僕のところへ相談に来ました。それでメンバーの写真を使わずに『神秘』のジャケットを仕上げた。それが『狂気』、それ以降へと続いていきます。『狂気』のジャケットは今では知らない人はないというくらい有名になりましたが、当時こんなことになるとは想像もしていませんでした。まあまあの出来だな、くらいに思っただけで。ピンク・フロイドとヒプノシスは、常に一緒に成長してきました。彼らがビッグになるにつれ、我々も有名になり、という具合に。会場ではアルバムを時代順に並べます。それをたどっていくだけで、彼らの心情的変化、曲作りの能力の向上、社会への発言が増していく様子が見てとれるでしょう。彼らは『狂気』の中で狂気や自分の頭の中について書き、「あなたがここにいてほしい」で不在を、「クレイジー・ダイアモンド」で失われたシド・バレットのことを書きました。『ザ・ウォール』は物理的な壁というより心の壁だ。このようにピンク・フロイドは大変な深みを持った曲を書く才能を持っています。彼らを形容する言葉がありましてね、『シンキング・パーソンズ・バンド(考える人間のバンド)』というんです。本人たちはこの言葉を気に入ってませんが、私はまさにピンク・フロイドはこれだと思うんです。これこそが彼らの魅力だと。展覧会は、展示品を通して彼らの音楽とビジュアルの結びつき、さらにはそこに心情や主張がどう絡まっているかを総合的に提示していくものにしたいと思っています。うまくいきますように」

●シド・バレットの絵画作品

Syd Barrett Art Artist: Syd (Roger) Barrett © Syd Barrett Family Ltd

オーブリー「シドの絵画作品も出品されます。初めてシドの家に行った時、部屋中に絵が掛かっていたのを覚えています。部屋はパステルやカンヴァスであふれていた。彼は熱心なアーティストで、繊細な青年でした。彼の制作した絵画は、アートスクールの学生のたしなみというレベルでなく、実に真剣な作品でした。私はジャケット・デザインを手がける前にバンドのローディをやってたことがあるんです。私が車を持っていたからに過ぎないんですが。シドは気まぐれで、何を考えているかわからず、大変扱いにくかった。他のメンバーは別の車に乗ってしまい、シドをライブ会場へ連れて行くのが私の役目になりました。そんなことを続けていたので、さっき上映された「Jugband Blues」の映像を見ると今でも悲しくなるんです。あれが撮影された頃、シドはおかしくなりかけていたから。彼がドラッグを過剰摂取したことは知られていますが、この時期すでに相当ダメージを受け、満足にパフォーマンスもできない状態になっていました。それで、さっきはスクリーンを直視できず、思わず別の方向を向いてしまいました」


ロジャー「僕はハンプシャーにバンド関連品を保管する倉庫を持っていて、そこに今博物館のスタッフが入ってリサーチをしてるんだが、今朝、シドがガールフレンドに宛てた手紙が見つかったと聞いたばかりだよ。ベッドフォード・ヴァン(バンドが初期に使っていたツアー・ヴァン)の絵が書いてある手紙なんだ」

●立体オブジェやインスタレーション


レイ「ピンク・フロイドは建築を学んだメンバーが多いだけあって、3D要素の多いバンドなんですね。ということはビジュアル・メッセージを発する素材がいくらでもあるわけで、その中からピンク・フロイドのエッセンスを表わすものを選び取り、スケール感を出しつつ博物館という空間にうまく収める、これがが我々に課された課題でした。まるで‘ウサギの穴’に落ちていくかのようにサイケデリックな空間に導かれる、そんな環境もあります。何を構築するのであれ、バンドがそれを作った時の『思い』を重視する作りにしました」

オーブリー「ピンク・フロイドを嫌ったパンクたちに捧げるコーナーも作りましたよ。そこはパンクとはまた違うやり方でイギリス社会に影響を与えたピンク・フロイドを讃える空間でもあります。この時代に、彼らは暗くアグレッシブなアルバム『アニマルズ』を制作しました。ジャケットに使われたバタシー発電所はもちろん有名な建築物ですが、産業革命を象徴する暗く複雑な歴史を持つ建物でもあります。このコーナーに入るだけで、当時のイギリスを覆っていた暗い空気が感じられるでしょう。ストや停電ばかりが続いたひどい時代でした、あれは」

●機材

ピンク・フロイドが初期に使用したサウンドシステムAzimuthコーディネーター 
Azimuth Coordinator © Victoria and Albert Museum, London

オーブリー「彼らは常にテクノロジーの先端を行っていました。しかも、それをどんどん進化させた。すごい勢いで。誰も体験したことがないようなサウンド・エフェクトを創出し、サウンド・スケープを創り上げる点において、彼らは他の追随を許さなかった」

●ロジャーの体罰に使われたムチ

Punishment Book & Cane © Pink Floyd Music Ltd

オーブリー「これはロジャーが学校で体罰を受けた時のムチです。ロジャー、シド、ストームは同じ学校に通っていて、3人はムチ打ちされる常連だったんです。今回、もう一人のキュレーター、ポーラがケンブリッジの中学まで行って実物を探してきました。ロジャーに話したら『よくそんなもの見つけたな!』とビックリしてましたよ」

ロジャー「展覧会ではいろいろ見たいものがあるが、とりわけ見たいのがそのムチだよ。当時の校長は体罰を何とも思ってなくて、やたらとムチをふるったんだ。罰手帳というものも一緒に見つかってね、1956年のところに『ウォーターズ、ケンカした罰で6回ムチ打ち』と記録されている。なぜだか、ここに載ったことをすばらしく誇りに思うよ(笑)。時代を感じるね。今は体罰は許されないことだから」

ニック「聞いたところによると、3人の中で一番ひんぱんにムチで叩かれたのはストームだったって話だ。かなりひねくれたヤツだったようだ」


オーブリー「『ザ・ウォール』の中の巨大な教師像は、この実在の残忍な教師がモデルになっています。展覧会には、メンバーの心に深く関わりのちに作品として結実していくアイテムが多数展示されます。こうした品をたくさん探そうと努力しました。デヴィッド・ギルモアが母親に宛てて書いた手紙なんかもあります。『ピンク・フロイドというバンドに加入しました。ご心配なく』という」

記者会見で紹介されたのは、展示品のごく一部だが、話を聞くうちに、すべてを包含したピンク・フロイド的大空間という何やらすごそうな展覧会像が浮かんできた。会見では、今まで聞いたことのなかった昔の逸話も飛び出し、大変興味深かった。博物館のキュレーターだけでなく、当事者たちが熱くなって主導するするこの展覧会、相当に中身の濃いものになりそうだ。



ここまでは、司会者が出席者に話を聞く形式で進んだが、続いて記者による質疑応答が始まると、空気が一変。メンバーが「2人も」揃っためったにないこのチャンスを逃してはならず、と記者たちから、バンドについての質問がバシバシ飛んだ。その中でロジャーは、現在ソロの新作をレコーディング中であることを明かした。


ロジャー「今、ニュー・アルバムの仕上げにかかっている。一昨日ヴォーカル入れを終えたところ。ナイジェル・ゴドリッチのプロデュースで、タイトルは『Is This The Life We Really Want?』。聴いた人に何らかの影響を与えられることを祈っているよ。夏からは『Us + Them』というタイトルのツアーに出る予定だ」



そして、お決まりのグラストンベリー・フェス出演は?の質問も出る。どうしていつもグラストンベリーかというと、主催者のマイケル・イーヴィスが、出演希望バンド・リストにピンク・フロイドが入っていると公言しているからだ。

ニック「いいね。やりたいことリストに加えておくよ。グラストンベリーには出たことがないし。とはいえ、可能性はものすごく低いけど」


ロジャー「僕は確か1回出たことがあるように思う。とても寒かった。でも、大勢の人が集まってすごく楽しかった。もう1回やるのもいいね。2018年にはおそらくヨーロッパ・ツアーに出るだろう。途中、グラストンベリーの開催日にイギリスへ戻ってきて出演するってのもありだね。やるかもしれないし、やらないかもしれない。デヴィッド・ギルモアは、最後に話した時引退したと言ってたかな」

ニック「僕も引退したと聞いたが、実はしてないみたいで」

ロジャー「再結成するかどうか聞かれるのって退屈でたまらない。そう思わない?」

速攻で「思いませんよ!」と記者席から声が飛んだ。



(レポート:清水晶子)

ピンク・フロイド大回顧展「The Pink Floyd Exhibition: Their Mortal Remains」
会場:英ロンドン、ヴィクトリア&アルバート博物館
会期:2017年5月13日~10月1日
公式サイト:http://pinkfloydexhibition.com/