ロンドンV&Aで開催中のピンク・フロイド大回顧展、詳細レポート

2017.06.01


5月13日に、ロンドン、ビクトリア&アルバート・ミュージアム(V&A)でオープンし、連日盛況のピンク・フロイド大回顧展「Pink Floyd Exhibition: Their Mortal Remains」。バンドの歴代メンバー全員と彼らと長年協働してきたデザイナー、建築家が一丸となって築き上げた展覧会だけに、ピンク・フロイド的(そして彼らのデザイン・チーム、ヒプノシス的)シュールな空間がきっちり造り込まれ、バンドの壮大な世界観が余すところなく表現されている。同じV&Aが2013年に開催した大ヒット・エクジビション、デヴィッド・ボウイ展を一歩進化させた打ち出しと言えそうだ。

60年代にロンドンのアンダーグラウンド・シーンから登場し、後にロック史に残るメガ・バンドへと飛躍したピンク・フロイドは、今年デビュー50周年を迎えた。この大回顧展は、初期から旺盛な実験精神で音と映像の融合を試みてきた彼らの歴史を、最高の音響とビジュアルでたどる長大な旅となる。加えてもうひとつ。「昔は自分たちのサウンドの制作方法など人に知られたくなかったけれど、そろそろ明かしてもいいかなと思った」とのメンバーの言葉どおり、ここは謎の多いピンク・フロイド・サウンドの秘密の核心に一歩近づける場ともなっている。手書きの歌詞、サウンド・コントローラーのような小さなものから、ステージセットの再現のような大型展示まで、会場内には見どころがいっぱい。写真を中心にその一端をご紹介したい。


入口でヘッドフォンを受け取り(見ている展示に関連した音楽・音声が自動的に流れてくるボウイ展の時と同じシステム)、さっそく中へ――。


▼入口

バンドの初期のツアー・ヴァン「ベッドフォード・ヴァン」のレプリカが、展覧会への入口になっている。ピンク・フロイドのマジカル・ミステリー・ツアーに出発。


▼サイケデリックな通路


*
バンドが誕生した60年代のサイケデリック・シーンを象徴する通路。全体にオプティカル・アートがほどこされ、天井ではライトショーが展開、60年代制作の「アリス・イン・ワンダーランド」の不思議映像がくり返し流される、めくるめく空間。


▼ライトショー
*
60年代、ロンドンUFOクラブのハウスバンドとして活動していた頃のピンク・フロイドのライヴを彩ったのが、こうしたカラフルなライトショー。彼らはサウンドとヴィジョンを実験的に結びつけた先駆者だった。


▼デビュー前
*
「アリスのウサギ穴」を抜けて、展示ギャラリーへ。展示は、アルバムをリリース順にたどっていくわかりやすい構成となっている。ここはデビュー前の各自の活動や音楽的影響を展示するコーナー。シド・バレットの絵画作品(奥に見える青い絵)、建築科の学生だったニック・メイソンが描いた設計図、50年代のロックンロール・レコードなど興味深いアイテムがぎっしり。本人や家族から提供された超貴重アイテムも多く、丁寧に見ていくと1日あっても足りない。


▼『夜明けの口笛吹き』


*

デビュー・アルバム関連のディスプレイは、ライトショーのプロジェクター、カラフルなポスター、シドが使っていた丸い鏡の装飾付きフェンダー・エスクワイア(現物は存在せず、これはレプリカ)など。


▼『神秘』

『神秘』のコーナーにあるサイケデリックな衣装、デヴィッド・ギルモアが「ピンク・フロイドというバンド」に加入したことを両親に報告した手紙、初期に使われたサウンド・コントローラー「Azimuthコーディネーター」。比較的素朴な機材から、時代の先端を行くものまで、さまざまなレベルの音響機材が全館に配されていて、機材マニアも満足なラインナップ。


▼『ウマグマ』

メンバーたちと目が合いそうな、巨大な『ウマグマ』ジャケットの展示。


▼『原子心母』

右手の『原子心母』コーナーには、1972年の日本公演のポスターも展示されている。


▼『おせっかい』
*
バンドの依頼でアーティスト、イアン・エメスが制作した「吹けよ風、呼べよ嵐」のためのアニメ作品。


▼『狂気』

代表作『狂気』の展示は、ひときわ大きなスペースにしつらえられている。キャビネットの中にはジャケットのほか、ジャケ・アートの原画スケッチ、宇宙飛行士に連れられて宇宙旅行をしてきたCD盤など。この隣りに、ジャケットのプリズムをモチーフにしたホログラフがゆっくり回転する真っ暗な部屋があり、本来そこはアルバムの音をじっくりゆっくり鑑賞するのが趣旨らしいが、混んでいてそれどころではないのが難点。


▼『炎~あなたがここにいてほしい~』

不在をテーマにした『炎』の部屋は、テーマを反映してか、ほぼがらんどう。壁に投影されたジャケットの画像は、「モダン・シュールレアリスト」と呼ばれたストーム・ソーガソンを擁したヒプノシスの作品。フォトショップのなかった時代、握手するビジネスマンの写真はスタントマンを起用して、本当にスーツに火をつけて撮影した。

*
一番手前のノートの書き込みは、ロジャーによる「葉巻はいかが」の歌詞。

▼『アニマルズ』『ザ・ウォール』

『アニマルズ』のジャケットに使われた「ブタが飛ぶバタシー発電所」のレプリカと、『ザ・ウォール』ツアーに使われた巨大な壁が向き合う大型展示物の部屋。壁の制作は、『ザ・ウォール』ツアーで実際に壁を築き崩壊させる演出をしてきたステージ・デザイン会社スチューフィッシュが担当した。壁の向こうには、『ザ・ウォール』に登場する、ムチを持った恐怖の教師の姿が見える。この強烈なキャラクターは、ジェラルド・スカーフのデザイン。発電所内部は、不況の70年代英国の陰うつな空気を反映して、灰色の暗いインテリアとなっている。

*

『アニマルズ』がリリースされた77年、英国にはパンクの嵐が吹き荒れていた。セックス・ピストルズのジョニー・ロットンは、冗長なコンセプト・アルバムを嫌い、「I Hate Pink Floyd」Tシャツを着た。しかし、両者とも社会の在り方に不満を持ち、権力者を批判する姿勢は、実は同じだった。


*
本展最大の「隠れた話題」となっているのが、この杖と小さなノート。昔々ケンブリッジの中学高校で同級生だったロジャー・ウォーターズ君、シド・バレット君、(ヒプノシスの)ストーム君は皆いたずら者で、校長から杖で叩かれる罰を受ける常連だった。その時の杖の現物がこれ。学校がちゃんと保管しており、キュレーターがそれを根性で探し出して借りにいった過程がすごい。小さなノートには、叩かれた生徒の名前と理由が記録されている。この校長が、のちに『ザ・ウォール』の恐怖の教師像へと発展する。ロジャーは以前の記者会見で、今回一番見たいのはこの杖、と話していた。


▼楽器の部屋


*

*
ニック・メイソンが「45年くらい前に、僕のために特別に描かれたドラムなんだ。ゴージャスだろう?」と自慢する、お気に入りの北斎の浮世絵ドラム・キット。V&Aのサイトには、彼が自らこれを棚に搬入する写真がアップされている。昔から几帳面にバンド活動の記録をつけて資料係と呼ばれていたニックは、本展でも資料面、アイテム集めで大活躍。また、時々しか人前に出てこないロジャー、ほとんど出てこないギルモアに代わってメディア相手に広報係を務め上げ、さらに搬入係まで・・・。彼の献身的な努力がなかったら、展示がここまで充実しなかったかもしれない。

「ブラック・ストラト」の愛称がついたギルモア愛用のフェンダー・ストラトキャスター。

▼『鬱』『光』



『鬱』のジャケットに使われたベッドが天井や壁に配されたシュールな光景。奥には後期のスペクタキュラーなステージに欠かせない装置となった円形スクリーンと、『光』の電球スーツを着た男たちが。ベッドに取り付けられたモニターから、ストーム・ソーガソンがベッドの撮影について語る声が聞こえてくる。「ベッドを700使いたいと考えました。明るい米西海岸で撮影したかったが、ベッドを700集められず、断念。代わりに英国デヴォンの海岸で撮ることにし、当日、700のベッドをようやく並べ終えたら、そこへ雨! ベッドをすべてトレーラーに回収して、やり直しです。とても人に言えないようなお金がかかりましたよ。聞かれたくないし、聞かれても答えません」。ロック界で莫大なお金が動き、アーティスト、ミュージシャンたちがダイナミックにやりたいことを追求していた時代の豪快なエピソードである。

*

完成写真も展示。

▼『対(TSUI)』

『対』のジャケットに登場する巨大な一対の顔たち。互いにコミュニケートしていることを表し、「トーキング・ヘッズ」とも呼ばれる。デザインしたストームによると、「2つの横向きの顔をじっと見ていると、ひとつの正面向きの顔があなたをじっと見ているのが見えてくる」とのこと。アルバム・ジャケットで試してみてください。



搬入の様子。

*

『対』ツアーのステージ模型と設計図。


▼『P・U・L・S・E』『驚異』

94年の『対』ツアーのライブ盤CD『P・U・L・S・E』及びDVD『驚異』のパッケージに使われた「目玉」も展示。


展覧会の最後は、超大規模のサラウンド・スクリーン。ここで、ピンク・フロイドの最近にして(今のところ)最後の再結成となった2005年の「ライヴ8」でのパフォーマンスが上映される。ゼンハイザー社の3Dサウンドと4面の大画面による再生は、臨場感あり過ぎる圧巻の体験。何度も見たことがある映像にも関わらず、非現実的なまでにスケールアップしたオーディオ&ヴィジュアルを通すことにより、感動が大きく増幅するのを感じた。この大回顧展、ぜひ日本へも行きますように!

(レポート:清水晶子)

photosⓒPink Floyd Exhibition - Their Mortal Remains
*photosⓒAkiko Shimizu

 

●ピンク・フロイド大回顧展「The Pink Floyd Exhibition: Their Mortal Remains」

会場:英ロンドン、ヴィクトリア&アルバート博物館
会期:2017年5月13日~10月1日
公式サイト:http://pinkfloydexhibition.com/

●ピンク・フロイド大回顧展トレーラー

 

 

 

rss